仕事に集中したいなら結婚すべき? 恋愛で全部ダメにしてた私のリアル【編集長日記 vol.3】

あの頃の自分に伝えたいこと

最近、「ああ、この瞬間が7年前にあればイケたな」って思うことが、やたら多い。

例えば、すごく魅力的な仕事の依頼が来たとき。
今の自分だからこそやれる。
でも、今の自分には、もうその船には乗れない理由がいくつもある。

その気持ちをどうにもできなくて、久しぶりにこうして言葉にしてみることにした。
同じように、時間を巻き戻したくなる気持ちを抱えている人が、どこかにいる気がして。

私は今、34歳。「7年前」は27歳だった。
この業界で言えば、27歳のあの頃は「若いね」と言ってもらえる、最後の年齢かもしれない。

30歳を超えると、熱意や可能性ではなく、実績でしか判断されなくなる。
だから、なにもない人は、本当に「なにもない人」として空気になる。

20代半ば、私は看護師を辞めて作家になった。
最初は夜職と掛け持ちだったけれど、少しずつ文章の仕事だけで食べられるようになり、夜職も辞めた。

今思えば、あの頃の私は神様に甘やかされていた。

インフルエンサーという存在がまだブルーオーシャンで、私みたいななにも持たざる若者にも、驚くような仕事がどんどん舞い込んだ。
20代半ばというのも、その状況に拍車をかけていたと思う。
若いやつが「なにか持っている」ように見えさえすれば、実績が全くなくても可能性を買われて、おもしろがってもらえるのだ。

経験も、特別な才能もない。
ただ、書くことが好きで、それを読んでくれる人が少しいただけ。
だけど、その「たまたま」が重なった。
血のにじむような努力をしている真面目な物書きの人々が、のどから手が出るほど欲しがってももらえないようなチャンスを、私はいとも簡単に手にしていた。

でも――私はそれを、全部台無しにした。

私は仕事を全く真面目にやらなかった。

放棄したり、気分で投げ出したり、断ったり。
連載も蹴って、書くこと自体やめてしまった。

いつだったか担当編集者に「スランプですか」と言われて、私はそれを言い訳に使うことにした。

「そうです。書けないんです」

そうか、私はスランプなんだ。だから書けないんだ。しかたがない。
それっぽく言い訳に使っているうちに、頭の中でそれが正しいような気がしてきた。

でも、今ならわかる。あれはただのサボりたいだけの言い訳。
自分の意思でやる気を出さなかっただけ、だった。

じゃあなぜ、あんなにも大事なチャンスにやる気を奮い立たせることもせず、手放してしまったのか。

理由は、1つしかない。
恋愛だ。

恋愛は合法の薬物。あっという間に日常が溶けた

あの頃の私は、完全に“恋愛中毒”だった。
恋愛というオーガニックで合法な薬物に依存し、脳がバグっていた。

恋愛って、合法の薬物みたいなもので。
強烈な幸福物質を脳に流し込み、あっという間に日常を溶かしていく。

好きな人ができると、世界がその人中心になった。
「好きぴ」の優先度が爆上がりして、他はどうでもよくなってしまう。

その人に会えない日はモノクロで、ただ耐えるだけの消耗日。
会える日だけがフルカラーで、意味のある1日。

そんな日々が続くと、私は仕事をしなくなった。

LINEが返ってこないだけで、心がざわざわして、仕事なんて手につかない。
「会いたい」と言われれば、何をしていても全部投げ出して会いに行ってしまう。
相手の休みに自分のスケジュールを合わせるためなら、仕事をサボるのなんて朝飯前。

会って何をしたいかって、要するに「脳内物質を摂取したいだけ」なのだ。

それが、恋愛の正体だった。
全ての中心に恋愛があり、それ以外はどうでもよくなっていく。

しかも、その関係が長続きするわけではなかった。
どれだけ夢中になっても、だいたい2年くらいで、パチンと、スイッチが切れる。

そのたびに、「あれ? まただ」と思った。
私はそれを「運命じゃなかった」と言い換えていたけれど、ほんとはただのドーパミン切れ。
脳内物質の切れ目が、明確に頭をクリアにさせた。

不思議なもので、恋が終わると、急に「仕事モード」の自分に戻る。
冷静で、ロジカルで、ちゃんと働く。
そうして少しずつ、またチャンスが戻ってくる。

でも、また誰かに恋をして、またゼロになる。
これを、何度も繰り返した。
登頂しない山登りを繰り返しているようだ。

自分で言うのもアレだけど、キモすぎる。
もし「物を書く」という技術すらなければ、たぶん私は今ここにいない。

文章だけが、私の命をつないでくれた。だけどあの頃の私は、それにすら感謝できなかった。

結婚と子どもがくれた「杭」

そんな私が、はっきり変わったのは──結婚と出産を経てからだった。

中でも「子ども」という存在は大きい。
ふらふらと外に出かけそうになると、どこかで「ジャラリ」と鎖の音がして、現実に戻される。

「真っ当に生きなきゃいけない」
「ちゃんとしないと、人を壊すことになる」

そんな天の声が聞こえてくる仕様になったことで、私の足は地面に留まるようになった。

確かに、かつてのように自由ではいられない。
ふらっと終電で出かけたり、突然島に引っ越したり、全てを投げ出して逃げたり──もう、そんな生き方はできない。

自由がなくなった、と感じる人もいるかもしれない。

でも私は、それを「足かせ」ではなく、「杭」だと思っている。

自分を人間の範囲につなぎとめる杭。
それがないと、私はきっと今も風船みたいにふらふらと空を漂っているから。

空へ飛んでいきそうな私を、人間の範囲につなぎとめてくれる、必要な杭なのだ。

恋愛って、「本来の自分」を解放する行為でもあると思う。
私の場合、甘えたで、情緒不安定で、誰かに受け止めてほしい自分。
それをまるごと出して、愛してもらうことに快楽を覚えていた。

だけどそれは、同時に「逃げ道」にもなった。
恋愛をすると、自分の選択肢の中に「▶︎逃げる」のコマンドが追加される。

ピンと張り詰めながら一生懸命生きている自分。
だけど「逃げても大丈夫」と思えると、私は大事な場面で、簡単に逃げた。

全てを放り出しても抱きしめてくれる人のところに、駆け込んでしまう。

でも今の私は違う。
私は子どもを育てる母親として、強くあらねばならない。

子どもが見ているから、泣けない。甘えない。へばらない。
私が折れたら、この子も折れる。
だから稼ぐ。家族を食わせる。

ただそれだけを原動力に、今日も仕事に向き合う。
ふわりと飛んでいきそうになったら、鎖の存在を確かめる。

そうして真面目に取り組めば、仕事はまた戻ってくるようになった。
この業界の良いところは、真面目にやれば、それなりの仕事がもらえるところだ。

仕事は恋愛とは違って、いくら没頭しても消耗しない。
やればやるほど楽しくなって、今思えばこっちのほうが、よほど健康的にドーパミンを摂取できているのかもしれない。

──だけど、ここでまた思う。

「この状況が、7年前にあればな」

今なら、ちゃんとやれる。
けれど、今はもう子どもがいて、家庭があって、制限もある。
若さというパスはもう使えない。
通らない企画も、受けられないオファーもある。

「やります!」というバイタリティはあっても、現実が脳裏をかすめる。

そんなときに考えてしまう。

これが7年前なら。

あの頃に今のような集中力と誠実さがあれば、私はもっと上に行けていたかもしれない。
そう思うと、たまらなく悔しいのだ。

「まだ結婚は早い」と思っているあなたへ

さて、だからこそ、あなたたちには私を反面教師にしてほしい。

今、「仕事に集中したいから結婚はまだいい。恋人でいい」と言っているあなた。
ほんまかいな、それって。

恋愛はしてるんでしょう?
休日や仕事終わり、大切な時間を恋人に費やして、不安定な関係に頭の何割かを持っていかれてるんでしょう?

なのに、「結婚」だけを仕事の妨げのように避けるの、なんで?

ここで、私は断言したい。

仕事に集中したいなら、むしろ早く結婚すべきだ。

恋愛で脳内をバグらせる時間を減らし、下半身に脳みそを乗せるのをやめる。

結婚すると、パートナーは「空気」になる。
そこにいるけれど、考える必要のない存在になる。
心の奥のほうで、ふわっと漂うような、優しい重みだけが残る。

その状態でこそ、人は仕事にフルコミットできるのだ。
仕事に集中したいなら、「恋愛」なんかより、結婚すべきだ。
今思えば私も、もっと早く結婚していたら、もっともっと、仕事に集中できていたと思う。

だから恋愛が好きな人ほど、自分自身に問い直してみて。

どうして「まだ」恋愛がしていたいの?
どうして「まだ」結婚は早いって思うの?

その「まだ」に、本当に妥当性があるか。
一度、ちゃんと立ち止まって考えてみてほしい。

人生のいちばんおいしい時間は、案外、もう目の前を通り過ぎてるかもしれないよ。

ナレソメで募集した、過去の自分へのメッセージ

最後に、ナレソメのYouTubeチャンネルで募集した、「5年前の自分へのメッセージ」を掲載して終わりとしたい。

未来に後悔しないために、先人たちの声に耳を傾けてほしいと思う。

28歳女性:当時の彼と結婚する未来はないことがわかっていたのに、自分から行動を起こすことができなくてだらだらと付き合い続けた。早くそいつを捨てて自立しろ! 自分の人生の手綱は自分で握れ。その先に確かな幸せがある!

32歳女性:「大丈夫!その経験がいつか実を結ぶから!」
当時、3年間付き合っていた初めての恋人にフラれて、結婚を考えていた私は、かなり落ち込んでました。こんなに苦しくてつらいなら恋愛なんてしない! とまで思っていました。でもその過程があったからこそ、自分を見つめ直すことができ、また男性に求める条件がなにかを知ることができました。おかげで、今やすてきな旦那様にかわいい娘と一緒に過ごしているので、あのときの経験はとても大事だったと思います。

32歳女性:「余裕ぶらないで、結婚や子育てについて本気出して考えてみてほしい」
本気で結婚してみたいと思ったのが30歳ごろだったが、一度27歳あたりで本気で考えてみてほしかった。32歳でナレソメに入会して納得のいく結婚ができて今は幸せを感じているが、27歳で始めていたら出会える男性の幅が全然違ってたのではないかと少し後悔しました。

37歳女性:「人は突然死ぬ」
結婚してもまだ子どもはいいかなと仕事に打ち込んでいた中、母親のガンが見つかり3か月で他界。
余命宣告を受けて慌てて妊活したけど間に合うこともなく。
今は3人の子宝に恵まれ幸せな日々ですが、「母に抱っこしてほしかったな」という思いはいつもあります。

後悔のない未来へ。

yuzuka

これまでの編集長日記はこちら

yuzuka
執筆者 yuzuka
ナレソメ予備校の学年主任で、ナレソメノート編集長。元精神科の看護師で夜職の経験もあり。普段はエッセイストや脚本家として活動している。著書「埋
続きを読む