「吊り橋効果」は、恋愛・婚活でほぼ効果なし! 心理学者が語る、その裏に潜む「悲しい恋愛格差」

コミュニケーション術や恋愛テクニックとして、あまりにも有名な「吊り橋効果」。あなたも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
ネットで「吊り橋効果」と検索すれば、数多くの恋愛・婚活情報サイトがヒットします。
「気になるあの人と、お化け屋敷に入ったりジェットコースターに乗ったりすれば恋が始まる!」
「初デートは、あえてスリリングな場所を選ぶべし!」
このようなうたい文句を信じ、少しでも関係を進展させようとデートプランを練った経験はありませんか?
しかし、もしその常識が、大きな誤解や勘違いから生まれたものだとしたら……?
「えっ、だって心理学の効果なんでしょ?」と驚いたかもしれません。しかし、ナレソメ予備校の恋愛心理学者・山崎は「吊り橋効果は、世間で語られている効果とは全くの別物。非常に重要な前提が抜け落ちたまま、誤って広まってしまっている」と警鐘を鳴らします。
世に広く流布する誤った情報が、かえって男女間のすれ違いを生み、あなたの恋愛や婚活がうまくいかない原因にさえなっているとしたら……。
今回は、ナレソメノート・副編集長のタナカが、恋愛心理学の専門家である山崎さんと共に、吊り橋効果が本当に意味すること、そして恋愛・婚活に本当に役立つ関係構築の本質について、徹底的に深掘りします。
「ドキドキの勘違い」が恋を生む? 吊り橋効果の俗説
タナカ:前回のメラビアンの法則に続き、今回は「吊り橋効果」について詳しく教えていただければと思います。
私の認識では、まさにその名の通り、吊り橋など、なにかスリルを味わえる場所に男女が行きます。そうすると、お互いに恐怖体験を共有することでドキドキ感が増して、それが恋愛感情につながり、2人の距離が縮まる……というのが「吊り橋効果」と理解しています。

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山崎:その認識が、まさに日本中に広まっている一般的な吊り橋効果のイメージですよね。理論上は、恐怖や不安によって生じた心拍数の上昇、つまり「ドキドキ」を、脳が「このドキドキは、隣にいる魅力的な異性のせいだ」と誤って解釈(誤帰属)してしまう、というのが吊り橋効果の理屈だとされています。
ただ……少し冷静になって考えてください。タナカさんが先ほど言ったように、恐怖体験によるドキドキと、恋愛感情からくるドキドキって、心拍数が上がるという生理的な反応は似ていても、その質というか、感情の根本が全く違うと思いませんか?
タナカ:そうですね。 まさにそこがずっと疑問でした。心臓がバクバクしているからといって、それを全部恋愛のせいにされても……という強い違和感があります。
山崎:そう、そこが重要なポイントです!
恋愛におけるドキドキというのは、相手への期待感やときめきからくる「高揚感」、つまりポジティブな感情です。一方で、高い場所や暗い場所で感じるドキドキは、身の危険や生命の危機からくる「恐怖」や「不安」、つまりネガティブな感情です。そもそも感情の意味付けが全く違うんです。
例えば、高所恐怖症の方を「吊り橋効果で仲良くなれるから」と、無理やり吊り橋や展望台に連れて行くとどうなるか。これは相手に強い苦痛を与えるだけで、関係が深まるどころか、むしろ「この人といると嫌な目に遭う」とネガティブな印象を植え付けてしまい、完全な逆効果になります。吊り橋効果なんて、全く発揮されません。
【悲報】吊り橋効果は「美人」にしか使えない
タナカ:なるほど……。まず、大前提として「恐怖」と「恋愛」のドキドキは別物だと認識することが重要なんですね。
あと、以前山崎さんから教えていただいて衝撃を受けたのですが、「吊り橋効果は、もともと美人(イケメン)にしか効果がない」というのは本当なんですか?
山崎:はい。残念ながら、本当です。そして、これこそが、吊り橋効果が世間で誤解されている最大のポイントと言っても過言ではありません。
タナカ:ええっ!? どういうことですか? ちまたの解説では、そんな条件、見たことがありませんが……。
山崎:1974年にカナダの心理学者、ダットンとアロンが行った、吊り橋効果の元になった有名な研究(*1)があります。この実験の真の目的は、「誰でも恋愛感情を抱くか」を検証したものではないんです。詳しい検証方法は後ほどお伝えしますが、実験の目的は、あくまで「“魅力的な女性”が、恐怖を感じた男性にとって“さらに魅力的に”映るか」を確認することでした。

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山崎:つまり、もともと“ナシ”の人が“アリ”に変わる魔法のテクニックではなく、すでに“アリ”の人が“すごくアリ”になるための、一種のブースター効果を検証したに過ぎないんです。
分かりやすく言えば、もともと魅力偏差値60の女性が、吊り橋の上で恐怖を感じた男性の目には、偏差値65に見えるかどうか、という実験なんです。ですから、我々のような一般人が吊り橋に行ったところで、基本的には何も起こらないのです。
タナカ:まさか、そんなに限定的な話だったとは……。恋愛テクニックとして語られている内容とは、全く意味合いが違いますね。
山崎:さらに残酷な話もあります。この吊り橋効果の拡張研究として、男性にホラー映画かコメディ映画を見せた後、さまざまな女性の映像を見せて魅力を評価してもらう、という実験(*2)があるんです。
タナカ:それもまた、興味深い実験ですね。

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山崎:その結果、ホラー映画という恐怖刺激を与えられた後では、もともと魅力的だと評価された女性は「さらに魅力的だ」と評価が上がったんです。具体的には、23点だった評価が28.6点まで上昇しました。
タナカ:おぉ、それは吊り橋効果が再現されたということですね!
山崎:しかし、問題はその次です。もともと魅力的ではないと評価された女性は、ホラー映画を見た後、「さらに魅力的ではない」と評価が下がってしまったんです。17.4点だった評価が、11.2点まで落ち込みました。
タナカ:うわ、それはキツいですね……。つまり、美人はより美しく、そうではない人はよりそうではなく見えてしまう。まさに「恋愛格差」を拡大させる効果じゃないですか。
山崎:その通りです。スリルや恐怖という刺激は、良くも悪くも感情の振れ幅を大きくする。だからこそ、もともとの印象がポジティブであれば、よりポジティブに。もともとの印象がネガティブであれば、よりネガティブに作用してしまう可能性がある。これが吊り橋効果の、あまり語られない恐ろしい側面です。
心理学の講義で「反面教師」となる実験内容
山崎:ちなみに、1974年に実施された吊り橋効果の検証は、心理学の講義で「こういう研究計画はダメですよ」という“反面教師”の代表例として登場します。もちろん、人の感情と生理的興奮の関係性に着目した、恋愛心理学の先駆けとしての歴史的な価値は非常に大きいのですが、現代の科学的な観点からすると、研究手法にはツッコミどころが満載なんです。
タナカ:具体的には、どんなところが問題視されているのでしょうか?
山崎:それを明らかにするために、まずこの実験がどのように行われたか、その具体的な手順からお話ししましょう。これを知ると、問題点がよりクリアに見えてきます。
まず、舞台はカナダの国立公園にある、2つの橋です。1つは、人が渡ると大きく揺れる、スリル満点の「吊り橋」。もう1つは、頑丈で全く揺れない「安全な橋」です。それぞれの橋で、魅力的な女性のインタビュアーが待ち構えています。そして、橋を渡り終えた18歳から35歳の男性観光客に声をかけ、協力を依頼するんです。
タナカ:なるほど、そこで恐怖を感じたグループと感じていないグループを分けるわけですね。調査の協力依頼は、ストレートに「恋愛感情を調べています」と伝えるんですか?
山崎:いえ、それでは正確なデータが取れないので、実験の目的は偽って伝えます。被験者の男性には「風景が人の創造的表現にどんな影響を与えるか調べているんです」と説明し、「TAT(絵画統覚検査)」という、1枚の絵を見せてそこから自由に物語を創作してもらう、という課題を与えるんですね。
タナカ:ずいぶん、まわりくどいことをするんですね。
山崎:そして、ここからがこの実験のキモです。課題が終わった後、女性インタビュアーは「もし実験についてもっと詳しく聞きたかったら、よかったら電話してくださいね」と言って、自分の名前と個人の電話番号が書かれたメモを男性に渡すんです。
タナカ:ひょっとして、その電話番号に後日かけてくるかどうかで、「好意」を測定した、ということですか?
山崎:その通りです。そして結果は、安全な橋を渡った男性16人のうち、電話をかけてきたのはわずか2人だったのに対し、揺れる吊り橋を渡った男性は18人中9人、実に半数が電話をかけてきた、というものでした。この結果だけを切り取ると、「やはり吊り橋効果はあったんだ!」となりますよね。

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タナカ:はい、数字だけ見るとそう思います。では、この実験のどこが「反面教師」なのでしょうか?
山崎:まず、サンプル数が圧倒的に少ないことです。論文を見ると、揺れる吊り橋で実験したグループは18人、揺れない頑丈な橋で実験したグループは16人。この人数では、統計的に何かを断言するにはあまりに心もとない。
例えば、たまたまその日に橋を渡っていた男性の中に、普段から女性に積極的に声をかける、いわゆる“ナンパ師”のような人が2〜3人混じっているだけで、実験結果は大きくゆがんでしまいますよね。
タナカ:確かに、数十人、できれば百人単位のデータがないと、信頼性に欠けますね。
山崎:次に「母集団の偏り」です。実験に参加したのは、たまたまその日、その国立公園に来ていた観光客の男性たちです。考えてみてください。わざわざ観光で揺れる吊り橋を渡りに来るような人たちって、どんな性格だと思いますか?
タナカ:うーん、どちらかというと、刺激を求めるタイプというか、アクティブで外交的な人が多そうですね。
山崎:そうですよね。内向的な人よりは、新しい体験やスリルを好む性格の人が多いと推測できます。そういう人は、そもそも見知らぬ女性に声をかけられたり、後日連絡したりすることへの心理的なハードルが低いかもしれない。
つまり、実験で得られた「連絡してくる確率が上がった」という結果は、吊り橋の効果ではなく、被験者のもともとの性格を反映しただけかもしれない、という批判が根強くあります。
タナカ:なるほど……。実験の前提条件が、ユルユルだったんですね。
山崎:はい。にもかかわらず、なぜこんなに有名になってしまったのか。それはやはり、「吊り橋効果」というネーミングが非常にキャッチーだったからでしょうね。以前お話しした「メラビアンの法則」が「人は見た目が9割」と誤解されて広まったのと全く同じ構造です。
恋愛テクニックとして紹介したい人たちにとって、非常に使いやすく、広めやすいテーマだった。その結果、先行研究で示されていたさまざまな限定条件や問題点が全て抜け落ちて、都合のいい部分だけが独り歩きしてしまったんです。
絶叫マシンで恋は冷める? ジェットコースター実験の残酷な結果
タナカ:なるほど、よく分かりました。では、吊り橋効果の信憑性が低いとして、その後の時代に、もっと厳密に「スリルと恋愛感情」の関係を検証したような研究はあるんでしょうか?
山崎:はい、あります。先ほど紹介したホラー映画を視聴した実験や「ジェットコースター」を使った実験(*3)もあります。
これは、被験者たちにジェットコースターへ一緒に乗ってもらい、その「前」と「後」で、同乗した相手(友人または恋人)の写真を見せて魅力度がどう変化するかを測定した、というものです。
タナカ:おぉ、それは面白いですね! 吊り橋よりも、現代的で身近なシチュエーションです。結果はどうだったんですか?
山崎:吊り橋効果が本当にあるなら、乗った後の方が魅力度が上がるはずですよね。ところが結果は驚くべきもので、男女ともに、また相手が友人でも恋人でも、乗った後の方が魅力度が有意に下がったんです。
タナカ:ええっ、なんと!? それは一体、なぜですか?
山崎:理由はとてもシンプルで、現実的です。考えてみてください。猛烈なスピードと風圧にさらされるジェットコースターに乗った後、人の姿はどうなりますか?
タナカ:あ……。髪はボサボサ、女性なら時間をかけて整えたメイクも崩れてしまうかもしれません。

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山崎:その通りです。また、恐怖で顔が引きつったり、大声で叫んだり、情けなくおびえている姿を相手に見せてしまう可能性もあります。特に、女性が男性に対して「頼りがい」を求めている場合、男性がひどくおびえている姿を見て幻滅してしまう、ということもあり得ます。
吊り橋効果による「ドキドキの錯覚」が仮にわずかに存在したとしても、それ以上に、外見が崩れたり、相手の“素”の姿に幻滅したりすることによるマイナス効果の方が、はるかに大きく上回ってしまった、ということです。
タナカ:うわぁ、なんとも残酷な結果ですね……。良かれと思って選んだ絶叫マシンデートが、実は相手からの評価を下げる原因になっていたかもしれない、と。
山崎:この結果と、先ほどのホラー映画の実験結果を比べると面白いことが分かります。
ジェットコースターは、一緒に乗っているパートナーの「変化(崩れた姿)」も一緒に見てしまいます。しかし、ホラー映画の実験では、あくまでスクリーンを見ているだけなので、隣に座っている女性はきれいなままです。自分の心拍数だけが一方的に上がっている。この「相手の外見が変化するかどうか」という違いが、結果を分けたのかもしれませんね。
【結論】婚活で吊り橋効果を狙うのは、今すぐやめなさい
タナカ:ここまでのお話を踏まえると、婚活や恋愛の初期段階で、吊り橋効果を狙ってデートプランを組むのは、全く意味がないどころか、むしろリスクすらあるということになりますね。
ただ、今でも多くの婚活情報サイトで「吊り橋効果を狙えるデートスポット特集」といった記事がたくさんあるのですが、これらは全て間違いということですか……?
山崎:はい。大変申し上げにくいですが、はっきりと「婚活の文脈で吊り橋効果を語るのは、弊害しかない」とすら思っています。
タナカ:そこまで言いますか(笑)。
山崎:ええ。なぜなら、婚活の初期段階、つまりお見合いや初デートで本当に大切なのは、「安心感」や「信頼感」の構築だからです。スリルや刺激といった非日常的なもので相手の気持ちをコントロールしよう、という発想自体が、長期的な関係を築くという目的とは真逆のベクトルを向いているんです。

タナカ:確かに……。結婚相手に求めるのは、スリルよりも安心感ですもんね。
山崎:それに、そもそもこのテクニックが有効なのは、先ほども申し上げた通り、ごく一部の人だけです。
あえて極端な言い方をすれば、ナレソメ予備校の婚活戦闘力診断で20点以上、つまり20代前半で高年収、モデル級のルックスでスタイルも抜群、という婚活戦闘力の高い女性が、自分と同等以上のハイスペックな男性を射止めるために、『あと1点』の魅力を上乗せする、みたいな、本当に限定的な状況でギリギリ意味があるかもしれない、というレベルの“ダメ押しテク”なんです。
ただ、そうなると、ほとんどの人には関係ありません。
タナカ:なるほど……。
山崎:吊り橋効果は、相手の気持ちを自分に向けさせる「追わせるテクニック」の一種であり、お互いに理解し合う「関係構築テクニック」ではありません。この違いを理解することが非常に重要です。
唯一の使い道は「夫婦のマンネリ解消」だった
タナカ:最後の最後に改めてお聞きしますが……吊り橋効果は本当に使いどころがないのでしょうか?
山崎:う〜ん、そうですね……。強いて挙げれば、吊り橋効果が最もポジティブに作用する可能性があるのは、「結婚後の夫婦関係」や「長年付き合っているカップル」においてです。
タナカ:結婚してから、ですか! それは意外でした。
山崎:ええ。「最近、夫婦の会話が事務連絡ばかりだな」「デートもいつも同じ場所で、少しマンネリ気味かもしれない」と感じ始めたら、それはチャンスです。お互いへの信頼関係という土台がしっかりとできあがっている2人だからこそ、非日常のスパイスが効果的に働くんです。

タナカ:なるほど! 婚活や恋活ではなく、すでに関係が成立している2人にとっては、吊り橋効果も意味があるんですね。
山崎:その通りです。例えば、記念日に一緒にバンジージャンプに挑戦してみるとか、本格的なお化け屋敷に手をつないで入ってみるとか。そうやって非日常の刺激やスリルを共有することで、「ああ、やっぱりこの人といると楽しいな」「いざという時、頼りになるな」と、相手の魅力を再発見できる可能性があるんです。
夫はもともと妻に魅力を感じて結婚しているわけですから、そのポジティブな感情が、スリルという刺激によって再燃し、より愛情が深まる。これこそが、吊り橋効果の本来の、そして唯一有効な使い方かもしれません。
タナカ:よく分かりました。最後に、恋愛や婚活に悩む読者の皆さんへ、山崎さんからメッセージをお願いします。
山崎:ちまたにあふれる恋愛テクニックに振り回されないでください。あなたの本来の魅力は、吊り橋の上や絶叫マシンの中で生まれるものではなく、日々の誠実なコミュニケーションの中で、ゆっくりと育まれるものです。
スリリングな場所で相手の心を動かそうとするよりも、静かで落ち着いたカフェで、じっくりとお互いの価値観や将来について話す。その時間こそが、本物のきずなを作るのです。小手先のテクニックに頼ることをやめたとき、あなたの婚活は、きっと新しいステージに進むはずです。
参考文献
*1:Dutton, D. G. & Aron, A. P.(1974). Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high axiety. Journal of ersonality and Social Psychology, 30, 510-517.
*2:White, G. L., Fishbein, S., & Rutsein, J. (1981). Passionate love and the misattribution of arousal. Journal of Personality and Social Psychology, 41(1), 56–62.
*3:Meston, C. M., & Frohlich, P. F. (2003).Love at rst fright: Partner salience moderates roller-coaster-induced excitation transfer. Archives of Sexual Behavior, 32, 537-
544.
ナレソメ総研