ドラマ『愛の、がっこう。』をネタバレ徹底考察!“静かな名作”となった理由とは?

「きゃー、ラウール!!」
妻のこの一言で視聴し始めたドラマに、いつの間にか私も夢中になっていた。
7月から放送された、フジテレビの『愛の、がっこう。』。テレビ視聴率は伸び悩んだものの、XをはじめSNSで話題となり、“静かな名作”となった。最終回放映後は、Xでトレンド1位を獲得。多くの視聴者の心をつかんだ。
『愛の、がっこう。』は、なぜバズったのか? 物語を振り返り、その理由を考えてみたい。
教師とホスト。出会うはずのない2人の純愛物語のあらすじ
教師とアンダーグラウンドなホスト。2人は一体どのように出会い、仲を深めたのか。まずはあらすじから追っていこう。
2人が抱える闇
物語の主人公は、私立ピエタス女学院高等学校で現代国語を教える35歳の小川愛実(木村文乃)だ。厳格で古い価値観を持つ家庭に育ち、大手企業でコンプライアンス担当役員を務める父・誠治(酒向芳)の敷いたレールの上を歩んできた。
教職も父の勧めで就いた。しかし、生徒たちとの関係はうまくいかず、授業は学級崩壊の危機に瀕していた。私生活では、父の紹介で出会った大手銀行員の川原洋二(中島歩)と結婚を前提に交際しているが、プロポーズを受けながらも、その関係に言い知れぬ違和感を抱えていた。彼女の心には、かつて婚約者に裏切られ、絶望のあまり自殺未遂にまで至った深い傷が刻まれており、それが彼女を臆病にさせていた。
一方、物語のもう1人の主人公は、新宿のホストクラブ「THE JOKER」で人気急上昇中の23歳のホスト・カヲル(ラウール)だ。鷹森大雅という本名を持つ彼は、人懐っこい笑顔と天性のトークスキルを武器に店のNo.7まで上り詰めていた。
しかし、その華やかな仮面の裏には、暗い過去が隠されていた。母・香坂奈央(りょう)から愛情を与えられず、義務教育すらまともに受けられなかったため、漢字の読み書きがほとんどできないという深刻な秘密を抱えていたのだ(作中では、障がいを持っている可能性も指摘されている)。さらに奈央は、カヲルの異父弟・勇樹の治療費を口実に、彼に金の無心を繰り返す搾取的な存在だった。
別世界にいた2人の邂逅
昼と夜、決して交わるはずのなかった2人の世界が交錯するきっかけは、愛実の教え子・沢口夏希(早坂美海)がカヲルにのめり込み、親の金を使い込んでいるという騒動だった。教師としての責任感から、愛実は夏希を連れ戻すために「THE JOKER」へと乗り込む。そこで初めて対峙した2人は、まさに聖職者と夜の世界の住人という、相いれない存在だった。
問題を解決するため、愛実は夏希の親に頼まれ、カヲルに「今後一切、夏希に連絡しない」という念書を書かせることになる。しかし、ペンを握ったカヲルが書いた文字は、およそ大人のものとは思えない、たどたどしいものだった。彼の自信に満ちたホストとしてのよろいが剥がれ落ち、教育を渇望する1人の青年の、痛々しいほどの脆弱さがあらわになった瞬間だった。
この出来事が、2人の関係を単なる教師とホストから、教える者と学ぶ者へと劇的に変化させることになる。
カヲルの抱える困難を知った愛実は、彼の力になりたいという純粋な教師としての衝動に駆られる。こうして、カヲルが住むマンション(「THE JOKER」が一室を借りて、同僚とルームシェアをしている)の屋上で、2人だけの秘密の「がっこう」が始まった。
愛実はカヲルに文字の読み書きを教え、その過程で、形式的になった教壇では決して得られなかった「教える喜び」とやりがいを再発見する。一方のカヲルも、生まれて初めて受ける辛抱強く優しい指導に、幼い頃に受けた「字が書けない」ことへのいじめや、母親からの侮蔑によって負った心の傷を癒やされていく。
屋上という聖域は、単なる勉強の場から、互いの魂が触れ合う場所へと変わっていった。2人は社会的な立場や年齢の壁を越え、それぞれの最も深い傷を打ち明け合う。愛実は誰にも言えなかった過去の自殺未遂を、カヲルは複雑な家庭環境の苦しみを語った。
教育という関係性は、やがて互いの魂を救済する親密なきずなへと昇華していく。
三浦海岸の思い出
しかし、2人の純粋な関係は、厳しい現実の壁に突き当たる。愛実の婚約者である洋二は、彼女の行動を不審に思い尾行を重ね、ついにホストクラブとの関係を突き止める。彼自身、田所雪乃(野波麻帆)という既婚女性と不倫関係にありながら、その嫉妬心はゆがんだ形でカヲルに向けられた。
愛実の父・誠治もまた、娘の「逸脱」を許さず、母・早苗(筒井真理子)に大金を渡してカヲルを懐柔させようとするなど、高圧的な介入を始める。
追い詰められた2人は、全てを終わらせるため、1日だけの「お別れ遠足」として三浦海岸へ向かう。電車に乗り、神社で絵馬を書き、浜辺でたわいのない「学校ごっこ」をする。それは、彼らがもし違う形で出会っていたら得られたかもしれない、ささやかで幸福な日常の幻影だった。
喫茶店で話す2人の姿も、店員から見るとカップルそのものだった。
しかし、その日の終わりに交わした切ないキスが、彼らの愛を確かめると同時に、悲劇の引き金となった。遠足の直後、洋二がカヲルを待ち伏せ、口論の末に歩道橋から突き落としてしまうのだ。カヲルはろっ骨骨折と脳内出血という重傷を負い、病院に搬送された。
依拠していたものが壊れ始めた
この事件を境に、2人を取り巻く世界は完全に崩壊する。学校では、副担任の佐倉栄太(味方良介)や夏希によって2人の関係が明るみに出てしまい、愛実は保護者や教頭から激しい追及を受ける。そして、「二度とカヲルに会わない」という念書に再び署名させられた。
家庭では、父・誠治が愛実を部屋に閉じ込めようと暴走するが、これまで夫の顔色をうかがうだけだった母・早苗が、ついに夫を殴りつけ、愛実を家から逃がすという反逆に出る。
時を同じくして、「THE JOKER」ではNo.1ホストのつばさ(荒井啓志)が客の宇都宮明菜(吉瀬美智子)に刺される傷害事件が発生し、警察の捜査が入り店は閉店に追い込まれた。職も、家も、社会的立場も、2人が寄りかかっていた全てのものが、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
全てを失った2人だったが、皮肉にもその破壊が、彼らを真に解放する。罪の意識にさいなまれ、愛実との婚約を解消した洋二が、カヲルに愛実が新たに借りたアパートの住所を教えたことで、2人は再会を果たす。公園でアイスを分け合うという、ごくありふれた光景が、彼らの新たな人生の始まりを象徴していた。
カヲルに一緒に住むことを提案した愛実は、そのことを学校の教頭に告げる。そんなことをしたらどうなるか、当然理解したうえでの行動だったのだろう。念書を出したにもかかわらず、同棲することを告げられた教頭は、静かに事実を受け入れ、退職願を提出するよう愛実に告げた。
一方、カヲルはホストを辞め、新たな仕事を探すことを決める。金の無心を続ける母・奈央に対しては、絶縁を宣告することで、過去との決別を果たした。
軛(くびき)を断ち、自らの道を歩む
そんな2人に対して、最後の壁が立ちはだかる。そう、愛実の父・誠治だ。誠治は愛実たちの部屋に乗り込み、別れるようにと迫る。
しかし、そこにカヲルが立ちはだかった。絶対に別れない、と。
誠治はカヲルを突き倒して、殴りかかってくるのを待った。もし殴ってきたら、こんな暴力的な男とは別れろと愛実に伝えたかったのかもしれない。
だが、カヲルは堪えた。
これに観念したのか、誠治はカヲルに「せめて専門学校にでもいけ」と告げて、部屋を去った。
一念発起したカヲルは、くしくも母と同じ美容師の道を選び、美容専門学校への入学を目指す。自室にこもって参考書とにらめっこし、時にはあの屋上で愛実とともに面接対策をした。おそらく、カヲルの人生でここまで努力したことはなかったのだろう。
その猛勉強の結果は……。無念の不合格だった。その結果に、カヲルは深い失望を抱く。愛実の慰めにも一切耳を貸さない。その背景には、やはりカヲルの生い立ちがあった。圧倒的なビジュアルで、最初は周囲も大きな期待を寄せるが、読み書きに難があり、学もないことがわかると、失望して去っていく。そして、また今回も……。
愛実は決して見捨てないとカヲルに伝えるも、自暴自棄になったカヲルには全く通じない。カヲルは、愛実に別れようと告げる。最終回、こうして2人の関係が終わるのかと思われた。
しかし、このときのカヲルは「がっこう」を通じて学び、愛実の愛情も受けて変わっていた。まず過去との折り合いをつけるため、「THE JOKER」のオーナー・松浦小治郎(沢村一樹)に会う。そして、その後はキャバクラで、さらにあの屋上で、浴びるほど酒を飲んで、泣き続けた。
過去にケリをつけたカヲルは、部屋を出ることを決めた。引っ越し業者から求められた書面へのサインも、なんなくできるようになっていた。
最終回の最終盤、舞台はあの三浦海岸の喫茶店になっていた。6年ぶりに復活する花火大会の存在を知って、愛実はカヲルと一緒に行こうと誘っていた。しかし、別れを告げられたあの日以来、カヲルとは会っていないようだった。
恐る恐る喫茶店に入ると、店員からあの日置き忘れた日傘とある手紙を渡された。その手紙の主は、カヲルだった。そこには、愛実への感謝が記されていたが、「、」(読点)で唐突に終わり、最後に何を伝えたいのか理解できなかった。店員に「手紙はこれだけか?」と尋ねるも、これだけだと返答される始末。しかし、店員は意味ありげに海に視線を向けた。
そして、ラストシーン。愛実はカヲルと、あの日ともに過ごした三浦海岸の浜辺で再会を果たす。
【ネタバレあり】考察:『愛の、がっこう。』は、なぜ視聴者の心に刺さったのか?
先生とホストの純愛。法律が改正され、ホストに対する風当たりが強くなっている昨今において、かなり攻めたストーリーだったと言えよう。
しかし、視聴者の支持が集まったのは、キャッチーなテーマだけではない。考察とともに、本作が視聴者の共感を集めた理由を探ってみたい。
俳優・ラウールの輝き
豪華俳優陣をそろえた本作だったが、その中でも傑出していたのがラウールだ。俳優が本職ではない彼が、いい意味で期待を裏切った。
まず、ホスト役が完全にハマっていた(誤解がないようお伝えするが、これは褒め言葉である)。あの鮮やかな赤のスーツを身にまとい、接客する姿は“ホストのイデア”だ。他局のドラマ『トリリオンゲーム』では、同じくSnow Manの目黒蓮がホスト役を演じるシーンがあったが、個人的にはラウールのほうがハマっていたと思う。
一緒に視聴していた妻は「ラウールがいるならホストに行きたい!」と言ったが、これは私も同感だ。そもそも男性がホストクラブに客として入れるのかわからないが、かなうなら私もラウールの接客を受けてみたい。そう思わせるほどのハマりっぷりだった。
華やかな姿を演じる一方で、その陰の部分もしっかり演じきっていた。特に、文字の読み書きに難のある人間を演じるのは、一筋縄ではいかないだろう。あえて下手な文字を書くという芝居も、簡単にできることではない。最終回、難なくカヲルが署名する姿を見て感動するのは、ラウールの演技力のたまものだ。
闇に落ちているカヲルの姿は、ホスト・カヲルとは正反対だ。そんな二面性を持つカヲルを演じきったラウールは、今後俳優としても活躍の場を広げるだろう。
「自己決定」をし、成長する姿
愛実とカヲル。2人の共通点は、なにかに縛られ、自らの意思で行動できないことだ。あらすじでもお伝えしているとおり、親に縛られ、愛実は過去のトラウマにも囚われている。
しかし、2人が出会ってから、人生が急展開する。愛の存在を確かめ、最後は結ばれる。ドラマだと言ってしまえばそれまでだが、本当にそうやって切り捨ててしまっていいのだろうか。
婚活のプロとして、読者の皆さんに着目していただきたいのは、2人がそれぞれ「自己決定」をしている姿だ。当初、愛実はカヲルに読み書きを教えることを決め、カヲルもそれを受け入れることを決める。正直、この時点でもう、2人の行動を支持する人は皆無に等しいだろう。教師がホストと接点を持つなど批判の対象でしかならないし、ホストを雇う店のオーナーからも、理解に苦しむだろう(店の売上につながる店外デートとは思えない)。
だが、そんなことは2人とも折り込み済みだ。周りからどう見えるかではない。自分がどうしたいのか。その意思を持ち、「自己決定」することで、幸せをつかめるのだ。
実際に、アカデミックの世界では「自己決定感」と幸福に強い相関があると指摘する研究もある。自らの人生の道筋を、自分で決めてきたという「感覚」が、仕事や恋愛・結婚にも好影響を与えるという。
ここで重要なポイントは「自己決定感」、すなわち「感覚」を持てるかどうかだ。極論すると、はたから見たら本人が決めていなくても、本人が「決めた」という感覚を持っていれば、それは幸福につながりやすいのだ。
愛実とカヲル、この2人が感覚ではなく「自己決定」しているのは明白だ。だからこそ、ドラマで描かれているように、初回と最終回ではまるで別人の2人になっている。
親の縛りから解放され、それぞれが新たな道を選び、幸せをつかむ。そんな2人を、羨望のまなざしで見ている視聴者が多かったのではないだろうか。
2人はこれから幸せになれるのか?
ドラマは、2人が三浦海岸の浜辺に「愛」という文字を書き、最後にキスをするシーンで終わる。この先については、もちろん描かれていない。
ドラマとしては、これで見事完結だ。しかし、婚活のプロとして(野暮なようだ)2人の行く末について考えてみたい。それが、これから婚活をする方々にとっての教訓になるからだ(ドラマの余韻に浸りたい方は、ここでページを閉じることをおすすめする)。
まず結論から端的に伝えよう。
2人は破局する。
婚活のプロの立場からすると、こう言わざるをえないのが現実だ。
一体なぜか? それは、カヲルが愛実から一方的に与えられる存在になりかねないからだ。
「そんなことはない。カヲルも愛実に与えている」という反論もあるだろう。しかし、先述した自己決定感にも通じるが、おそらくカヲルは愛実になにかを与えているという実感をほとんど持てないだろう。
男はプライドの生き物だ。ましてや、カヲルのようなホストの世界で成り上がった男は、プライドの塊といってもいい。これは、仮にホストを辞めたからといって、そう簡単になくなるものではない。
ホスト時代は、収入もそれなりにあっただろう。しかしホストを辞めて、それこそ学生になれば収入はほぼゼロだ。そうすると、定職についている愛実からサポートを受けるだろう。
また文字の読み書きに限らず、一般社会で求められる社会性も愛実から教えられるはずだ(専門学校の試験時の振る舞いを見れば、カヲルに社会性がほとんどないのは明らかだ)。社会で生き抜くにあたって、愛実のサポート無しではやっていけない。
愛実は金銭的にサポートしたり、なにかを教えたりすることに、抵抗はほとんど感じないだろう。しかし、カヲルはどうだろう。この状況に耐えられるとは、到底思えない。もちろん、カヲル自身が満たされる形で愛実をサポートできれば状況は変わるが、具体的にどう支えられるかは全く見えない。
カップルとして成立するには、お互いが支え合えなければ関係は続かない。これが現実だ。ましてや、結婚ともなればなおさらだ。
脆い関係の2人だからこそ、ひきつけられる
ただ、確固たる男女の関係性を見せつけられても、視聴者はなにも感じられないだろう。脆い関係の2人だからこそ、視聴者はひきつけられ、心の中で応援する。そして、それに応える形で、ドラマは大団円を迎えた。“禁断なのに純愛な“愛”の物語”と銘打った作品は、一線級のキャストとスタッフの手によって、無事に完成したのだ。
来週から『愛の、がっこう。』ロスに陥る人もいるだろう。おそらく、筆者もその1人になる。その代わりになる物語を、また妻と見つけたいと思う。
最後に少しだけ宣伝を。
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編集:yuzuka、執筆:タナカ