恋愛テクニック「ミラーリング」のウソとホント。その効果、実は因果が逆だった!?

相手のしぐさをまねることで好意を持たれるという「ミラーリング」。恋愛テクニックとして広く知られていますが、その本来の意味や効果については、多くの誤解があるようです。

ネットや雑誌で「ミラーリング効果で相手をひきつける!」といったうたい文句を目にしたことがある人も多いでしょう。しかし、その情報をうのみにして実践した結果、なぜか相手との関係がギクシャクしてしまった……そんな経験、ありませんか?

実は、世に広まっているミラーリングの知識は、心理学の専門家から見ると「最も重要な前提が抜け落ちている」と言います。

今回は、ナレソメ予備校の恋愛心理学者・山崎に、ミラーリングの真実について、ナレソメノート副編集長のタナカが徹底的に深掘りします。この記事を読めば、あなたが恋愛テクニックに振り回されることは、もうないでしょう。

ミラーリングの衝撃の事実。「まねして好かれる」は因果が逆だった

タナカ:前回、吊り橋効果について伺い、恋愛テクニックがいかに誤解されているかを知って衝撃を受けました。

今回は「ミラーリング」についてですが、一般的には「相手のミラー(鏡)になるように、しぐさや発言をまねると、相手に好意を持ってもらえる」というものですよね? 私もそのくらいの認識なんですが、もしかして、また何か大事な前提が抜けていますか?

山崎:その認識は、ミラーリングの本来の意味とは因果関係が逆になってしまっています

タナカ:えっ、逆なんですか!?「まねをするから好意を持ってもらえる」のではないんですか?

山崎:はい。一説によると、「我々は、好意や敬意を抱いている相手のまねを、無意識にしてしまう」という考え方が妥当のようです。つまり、好意が先で、まねが後なんです。好きなアーティストのファッションをまねしたり、尊敬する上司の口癖がうつったりするのと同じ原理ですね。

※画像はイメージです

タナカ:好きだから、尊敬しているから、自然と似てくる……と。

山崎:そのとおりです。ミラーリングは「相手に好意を抱かせるためのテクニック」というよりは、「自分が相手に好意や共感を抱いていることを(無意識に)伝えるための行動」であり、「好意の結果として現れる現象」と捉えるのがより正確なんです。

相手の感情をコントロールしたり、意図的に自分を好きにさせたりするための手法ではない、というのが最も重要なポイントです。

「ミラーリング」はカウンセリングの専門技法。恋愛テクニックではなかった

タナカ:ということは、そもそも恋愛で使われるような話ではなかったということですか?

山崎:はい。もともとミラーリングの出自は、臨床心理学の分野、特にカウンセリングで使われていた専門的な技法なんです。

カウンセラーがクライアント(相談者)に対して、「あなたの話に共感していますよ」「あなたのことを受け止めていますよ」という姿勢を示すために、相手の身ぶりやしぐさ、姿勢などを注意深く観察し、それに合わせていくというアプローチです。

これによって、クライアントは「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と感じ、安心感が生まれて、より心を開いて話ができるようになる。そういう信頼関係を築くことが目的でした。

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タナカ:あくまで専門家が、面接室のような特殊な空間で、クライアントとの関係性を構築するために使っていた技術なんですね。

山崎:しかも、カウンセリングは相手を評価する場ではありませんが、婚活や恋愛の初期段階は、お互いが「相手は自分にとってどういう人か」を評価する文脈が必ず入ってきます。

だから恋愛や婚活の場面とは、文脈が全く異なりますね。

なぜ恋愛テクニックとして誤用されたのか?

タナカ:なぜ専門的なカウンセリング技法が、「ミラーリングをすれば好かれる」という恋愛テクニックとして広まってしまったのでしょうか?

山崎:おそらく、共感から好意に至るまでの非常に複雑なプロセスが、ごっそり抜け落ちて伝わってしまったからだと考えられます。

人が好意を抱くまでは、本来は以下のような段階的なステップがあるはずなんです。

  1. ミラーリングによって相手に「この人は自分に共感してくれている」と感じさせる。
  2. 共感の気持ちを抱いた相手は心を開きやすくなる。
  3. 心を開くと、自己開示(普段はあまり話さない自分の深い話をすること)が増える。
  4. 人は、深いレベルの自己開示をした相手に対して、親密さや好意を抱きやすくなる。
  5. 心を開いた相手は、結果として、自己開示をした対象に恋愛感情を抱く確率が「少しだけ」上がる。

この中間にあるステップを全て無視して、「ミラーリングをしたら、最終的に好きになる」という部分だけが切り取られてしまったのではないでしょうか。

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タナカ:うわあ……。こんなに話が抜け落ちてしまったんですね……。

山崎:しかも、この話には続きがあります。そもそも、初期のミラーリングの研究自体に、科学的な厳密さが足りなかったのではないか、という指摘もあるんです。

例えば、心理学には「身体化された認知」という効果がはっきりと証明されています。これは、身体的な感覚が、人の認知や印象に影響を与えるというものです。

有名な例では、「自分が温かい飲み物を持っていると、目の前の相手に対して温かい印象(好印象)を抱きやすい」というものがあります。

タナカ:えっ、そんなことがあるんですか!? じゃあ、お見合いでは自分に好意を持ってもらうために、相手にホットコーヒーを勧めたほうがいいってことですか?

山崎:そうです。そっちのテクニックのほうが、よっぽど意味がありますよね(笑)。

しかし、初期のミラーリングの研究では、そういった飲み物の温度や、室温、クライアントの服装といった、他の要因が全く考慮されずに実験が行われていたんです。ミラーリングをしているときに、たまたま温かい飲み物を出していた可能性も否定できませんよね。

タナカ:なるほど。純粋にミラーリングだけの効果だったとは言い切れない、と。

山崎:他にも、カウンセラーが熱心に「うなく」行為。これも「共感してもらえている」という感覚につながり、好意に影響したかもしれません。さまざまな要因が混ざってしまっている可能性があるため、単純に行動をまねることで相手が自分を好きになる、と考えるのはかなり飛躍があると言えるわけです。

ミラーリングが婚活で役立つこともある

タナカ:ここまでの話を踏まえると、ミラーリングを恋愛テクニックとして使うのはかなり難しそうですね。しかし、全く役に立たないのでしょうか?

山崎:いえ、1つ非常に有効な使い方があります。それは、「相手への好意を測る、自分自身の心のチェックポイントとして使う」ことです。

タナカ:相手に使うのではなく、自分に使う、ということですか?

山崎:先ほど、人は好意を抱いた相手のまねを無意識にしてしまう、とお話ししましたよね。にもかかわらず、特に婚活の場では「相手に影響されている自分が嫌だ」「簡単に好きだなんて認めたくない」と、天の邪鬼な態度をとってしまう人がいるんです。

特に婚活で「なかなか人を好きになれないんです」と悩んでいる方々は、斜に構えていることも多いので、そういう方こそ、自分の無意識の行動に目を向けてほしいですね。

相手と話していて、気づいたら同じタイミングでうなづいていたり、同じしぐさをしていたり、話すテンポが似てきたり……。そういう無意識のミラーリングに気づいたら、「あ、自分はこの人に好意を持っているんだな」「心地よいと感じているんだな」と、自分の素直な気持ちを認めてあげることが大切です。

ミラーリングは、自分の本心を知るためのリトマス試験紙になるでしょう。

唯一使えるミラーリングは「オウム返し」。ただし目的は「共感」

タナカ:自分の気持ちを確かめるために使う、というのは新しい視点でした。他に、相手とのコミュニケーションを円滑にする目的で、意識的に使えるミラーリングのようなテクニックはありますか?

山崎:言葉のミラーリング、いわゆる「オウム返し」は有効です。

オウム返しは、相手が言ったこと、特に「感情」を表す言葉を、こちらで解釈したり言い換えたりせずに、そのまま繰り返してあげることです。

例えば、相手が「今日、仕事で上司に理不尽に怒られて、すごく嫌だったんだ」と言ったとします。この時、やってはいけないのが「それは君にも悪いところがあったんじゃない?」と諭したり、「じゃあ上司にこう言い返せばよかったのに」とアドバイスしたりすることです。

相手は答えが欲しいわけじゃないんですから。ただ、共感してほしいだけなんです。

タナカ:良かれと思ってアドバイスすると、逆に「うるさいな」って思われてしまうパターンですね。

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山崎:そうです。だから、正解は「そうか、それは嫌だったね」と、相手の感情の言葉をそのまま返すことです。そうすることで、相手は「この人は自分の気持ちをちゃんと受け止めてくれている」と感じ、安心してさらに話を続けることができます。

この人は聞いてくれる、となるから、その後の自己開示がしやすくなるんです。

タナカ:ただ、オウム返しも相手を操作するテクニックではなく、あくまで共感を示し、会話をつなげていくための手法ですよね?

山崎:ええ。そもそも、お見合いの席で「結婚後は自分の部屋が欲しいんです」という言葉に対して「欲しいんですね」、「そうなんです」……なんてやり取りを60分も続けていたら、ただのヤバい人ですよね(笑)。

そこは「どんなお部屋がいいんですか?」「何で欲しいんですか?」と話を広げましょう。オウム返しは、使いどころがとても重要です。

【要注意】 意識的なミラーリングは「キモい」と思われるだけ

山崎:最後に、一番お伝えしたいことがあります。それは、意図的に、かつ意識的に相手のまねをする行為は、絶対にやめるべきです。

なぜなら、バレた瞬間に「気持ち悪い」と思われるだけだからです。

心理学では、自分をよく見せるために意図的な振る舞いをすることを「戦略的自己提示」と呼びますが、私の恩師は「これを非言語(態度やしぐさ)でやる女性が世界で一番嫌われる」と言っていました。

それは男性も同じです。下心が透けて見える行動は、相手に不信感と不快感しか与えません。

タナカ:吊り橋効果もそうでしたが、やはり相手の感情をコントロールしようとするような簡単なテクニックは存在しない、ということですね。

山崎:存在しません。もしそんな魔法のようなテクニックがあったら、私たちの仕事はなくなってしまいますから(笑)。

小手先の技に頼るのではなく、誠実なコミュニケーションを心がけること。結局は、それが幸せな関係を築くための最も確実で、唯一の道だと言えるでしょう。

ナレソメ総研

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執筆者 ナレソメ総研
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