【弁護士解説】事実婚は「安易に選ぶべきではない」。知っておくべき“3大デメリット”とは?
近年、著名人が選択することも増え、注目を集める「事実婚」。婚姻届は出さないものの、夫婦として共同生活を送るこのスタイルは、法律に縛られない自由な形として魅力的に映るかもしれません。
しかし、「法律婚(婚姻)」と同じように見えて、実は大きな違いやリスクも内在します。
今回は、ナレソメ予備校のYouTubeチャンネルでもおなじみの田村勇人弁護士に、事実婚の実態や選択する前に知っておくべきメリット・デメリットを伺いました。
そもそも「事実婚」とは?
――最近よく耳にする「事実婚」とは、法律的にどういうものなのでしょうか?
田村:事実婚とは、「実質的に婚姻していると同視できる状況」を指します。一緒に暮らし、家計を1つにして、周囲にも夫婦として振る舞っている。ただ、婚姻届を出していないだけ、という関係ですね。
昔からある「内縁」という言葉と法的には同じ意味です。
――「内縁の妻」というと少し古くさい感じですが、「事実婚」と言うと、より対等なパートナーというイメージがしますね。
田村:言葉の印象は違うかもしれませんが、法的な扱いは同じです。
重要なのは、婚姻届を出していないだけで、それ以外は夫婦同然の実態があるため、一定の法的保護は与えられるという点です。
※出典:内閣府男女共同参画局総務課調査室「いわゆる事実婚に関する制度や運用等における取扱い」(令和3年)
田村:一方で、法律婚とは決定的に違うところもある。これが大きなポイントになります。
法律婚と「同等ではない」。知っておくべき3大デメリット
――その法律婚とは「同等ではない」部分が、事実婚を考えるうえで非常に重要になりそうですね。具体的には、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
田村:大きく分けて3つあります。まず一番大きいのが、相続権がないことです。
――つまり、パートナーが亡くなったときに、財産を受け取れないということですか?
田村:そのとおりです。法律上の配偶者ではないので法定相続人にはなれず、亡くなったパートナーの銀行口座からお金を引き出すなど、遺産に触れることができません。
もちろん、遺言書にパートナーへも相続すると書かれていれば相続は発生しますが、そもそも結婚すると同時に遺言書を書くケースはほとんどありません。また、仮に亡くなったパートナーに法定相続人がいる場合は、法定相続分の半分がとられてしまいます。

――他のデメリットについても教えてください。
田村:医療上の「キーパーソン」になれない可能性が高いことが挙げられます。
――事実婚のパートナーが病院の手術に立ち会えないなど、デメリットとしてよく聞きますね。
田村:パートナーが病気や事故で倒れて、手術の同意や治療方針の決定が必要になった場合、法律上の親族関係が明確な子どもや親兄弟がいれば、病院はそちらの意見を優先します。
よくある話ですが、内縁の夫が倒れた際に、その関係を快く思っていなかった夫の子どもたちが、妻を立ち入らせず、そのまま死に目に会えなかった……というケースもあります。
――事実婚のメリットとして「親族付き合いの煩わしさから解放されること」が挙げられています。しかし、親族との関係が希薄で良く思われていないと、いざというときに身内として見なされず、死に目にも会えないことがあるんですね。
田村:実は私の知り合いの著名人が最近再婚されたのですが、友人として相談を受けた際に「絶対に籍を入れたほうがいい」と助言しました。その方はご高齢で、今後病院に行く機会も増えます。そのとき、奥様に意思決定してほしいなら、法律婚にしておくべきだと。それくらい重要な問題なんです。
――なるほど。そして3つ目のデメリットはなんでしょうか?
田村:そもそも「事実婚だった」と認めてもらえないリスクが常にあることです。
――当事者たちは事実婚だと思っていても、ですか?
田村:関係がこじれて裁判になったとき、相手方から「いや、あれは事実婚ではなく、ただの同棲だった」と主張される可能性があるんです。実際に、15年間事実婚だと認識していた方が、裁判で「同棲」と見なされた判例もあります。
もしそれが認められてしまうと、法律婚の離婚時のような財産分与などが一切無く、関係を清算されてしまう恐れがあります。
※出典:内閣府男女共同参画局総務課調査室「いわゆる事実婚に関する制度や運用等における取扱い」(令和3年)
「事実婚」を法的に認めてもらうには? 公正証書の有効性と限界
――関係性を後から否定されるリスクがあるのは怖いですね……。では、「事実婚」だと認めてもらうにはどうすればいいのでしょうか? 例えば、住民票を同一にして「未届けの夫/妻」と記載したり、自治体のパートナーシップ制度に登録したり、公正証書を作成したりする方法があると聞きますが……。
田村:公正証書を作成するのが、一番確実性は高まりますね。公証人が本人の意思確認をしますから。
それ以外にも、住民票を同一住所にする、家計を一緒にする、SNSなどで「事実婚ですが、結婚しています」と公表するなど、客観的な証拠を積み重ねるのが重要です。
――公正証書を作成して、かつ客観的な事実を積み上げておけば、ひとまずは安心と考えていいのでしょうか?
田村:残念ながら、そこまでやっても完璧ではないというのが実情です。たとえ公正証書を作ったとしても、後から裁判所がその効力を認めない可能性がゼロではないんです。
――公正証書を作っても無効になることがあるんですか?
田村:例えば、片方のパートナーが「公正証書に署名したのは、自分の本心ではなかった」などと主張をすれば、裁判官がその主張を採用して、無効にしてしまう可能性があります。また、実際にそのような判例もあるんです。
日本は「家のことは家で解決する」のが原則で、海外と比べて公証人の立場が弱いです。そのため、当事者間でどんなに固い約束をしても、裁判官が法と照らし合わせて無効にしてしまうリスクが常にある。これは事実婚が抱える本質的な不安定さとも言えます。
――カップルがもめたら、公正証書に署名したことにケチをつけるとかありえそうですよね。ちなみに、法律婚をした方が「婚姻届に署名したのは、本心ではない」という訴えは裁判で認められるのでしょうか?
田村:私が経験した限りでは、そのような訴えが裁判で認められた判例はありませんね。
メリットは「夫婦別姓」だけ? 事実婚を選ぶべき人とは
――なるほど……。デメリットがかなり大きいことが分かりました。一方で、事実婚のメリットはなんでしょうか? 多くの方が「夫婦別姓」を貫きたいという理由で選択されると思いますが、それ以外のメリットはありますか?
田村:正直言って、別姓以外の理由で積極的に事実婚を選ぶメリットはほとんどありません。強いて挙げるなら、お互いに「もしうまくいかなかったときに、戸籍にバツ(離婚歴)をつけたくない」という特殊な事情がある場合くらいでしょうか。
――ただ、現代ではバツがつくのが一概に悪いとは言い切れませんよね。婚活市場では、バツイチの方は大人気です。
田村:あとは、いわゆる「できたら婚」したい場合ですね。これは「できちゃった婚」とは異なり、家の跡継ぎ問題などで「子どもができたら入籍する」という約束のもとで関係を始めるケースです。
また、子どもをどうしても持ちたいと考えている女性が「できたら婚」を望むこともあります。例えば、男性不妊が発覚した際に、事実婚だと法律婚と比べて関係を解消しやすいというメリットもあります。
ただ、いずれのケースもかなり限定的ですね。
――そうなると、やはり最大の動機は「夫婦別姓」ということになりそうですね。
田村:そうですね。仕事上のキャリアなどで、どうしても名前を変えられない、変えたくないという切実な理由がある方々にとっては、現状では事実婚が唯一の選択肢になっていますね。
子どもの親権や養育費はどうなる?
――もし事実婚の間に子どもが生まれた場合、親権や養育費はどうなるのでしょうか? 例えば、夫の不倫が原因で関係が破綻した場合、法律婚と同じように慰謝料や養育費は請求できるのでしょうか。
田村:それは請求できます。ただし、そのためにはまず父親に子どもを「認知」してもらっていることが前提です。
もし相手が認知していなくても、DNA鑑定によって「強制認知」をさせる手続きがあり、それによって法的な親子関係を確定させれば、養育費を請求できます。
――なるほど、子どもの権利は守られるのですね。親権についてはどうですか?
田村:婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもの親権は、原則として母親が持ちます。父親が親権を持つためには、父母の同意だけではなく、家庭裁判所での手続きなどが必要になり、ハードルは上がります。
事実婚を検討する前に考えてほしいこと
――ここまでお話を伺って、個人的には事実婚はかなり慎重に判断すべき選択肢だと感じました。最後に、今まさに婚活中で、法律婚か事実婚かで迷っている方に、先生からアドバイスをお願いします。
田村:まず、「なぜ事実婚を考えるのか?」と聞きますね。それが名字の問題でなければ、「絶対に法律婚にしなさい」と言います。
――最近は「法律に縛られたくない」といった理由で事実婚を口にする人もいますが……。
田村:そういう考えの相手とは、結婚すること自体をやめた方がいいでしょう。

――厳しいご意見ですが、本質を突いていますね。
田村:結婚というのは、お互いをある意味で縛り、責任を負う制度です。その本質を理解せず、事実婚を選ぶのは、あまりに浅はかです。もし自分の娘が、そんな浅はかな考えを持った男性を連れてきたら「そんなやつと結婚するのはやめろ。ばかじゃないか」と、はっきり言います。
もちろん、先ほどから話しているように、夫婦別姓の問題は非常に根深く、切実な問題です。キャリアを築いてきた方にとって、名前はアイデンティティそのものですから。
ですから、どうしても別姓でなければならないという強い理由があるのなら、今日お話ししたような数々のデメリット(相続ができない、医療のキーパーソンになれない、そして常に関係性を覆されるリスクがあること)を全て理解し、パートナーとしっかり話し合ったうえで覚悟を持って選択すべきです。
安易な気持ちで選ぶべき道では、決してありません。
ナレソメノート編集部
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